猫の本棚名作紹介ブログ

古今東西の名作を日々の雑感もまじえ紹介します。読書で人生を豊かに。

『ミドルマーチ 1』ジョージ・エリオット

■ミドルマーチ 1■  全4巻

ジョージ・エリオット 作

 


ペンネームは男性名だが女性作家である。

 

f:id:nekonohondana:20220722233154j:image
高慢と偏見』が恋愛を描いていたのに対し、こちらは「地方生活についての研究」という副題が示すように、架空の地方都市ミドルマーチのさまざまな人物にスポットをあて恋愛・結婚はもちろん、宗教、金銭、階級など人々が抱えている諸問題について多角的な視点から描いている。

 


展開はとても現実的だ。

例えば、ドロシアは結婚したとたんに失望し、夫婦喧嘩し破局も覚悟するが妥協し仲直りする。

銀行家バルストロードは、息子に便宜をはかるよう市長となる父親の工場長から頼まれたが、甘やかすべきではないと毅然とした態度で断った。まるで半沢直樹みたいだ!と感心したのに、すぐ態度を翻す。

新参者の若い医師リドゲイトは、病院付き牧師の選挙で、大勢に流された。

 


世の中は妥協しながら進んでいく。ハッピーエンドなど期待できそうもない辛口小説だが、なぜか面白い。

#ノルウェーブッククラブ世界最高の文学 100選 に選ばれており、2015年には#偉大なイギリス小説100選 の一位にも選ばれた。

 


第一巻の主要な登場人物(しおりより転記)

アーサー・ブルック‥ティプトンに住む地主、治安判事。ドロシアとシーリアの伯父で独身。

ドロシア・ブルック‥宗教的情熱、献身の精神に満ちた若い女性。カソーボンと結婚する。

シーリア・ブルック‥ドロシアの妹。

サー・ジェイムズ・チェッタム‥フレシットに住む地主、準男爵。当初、ドロシアに思いを寄せる。

エドワード・カソーボン‥ローウィックに住む教区牧師。研究生活に没頭している。

ウオルター・ヴィンシー‥工場主でミドルマーチの市長。

ロザモンド・ヴィンシー‥ヴィンシー家の長女。美貌と音楽の才能を持つ。

フレッド・ヴィンシー‥ヴィンシー家の長男。両親からは牧師になることを期待されている。

ピーター・フェザストーン‥フレッド・ヴィンシーやメアリ・ガースの伯父。資産家。

メアリ・ガース‥ガース家の長女。フェザーストーンの姪。ロザモンドの幼なじみ。

ターシアス・リドゲイト‥ミドルマーチに新たにやってきた医師。名門の出。

ニコラス・バルストロード‥銀行家。ヴィンシー市長の妹ハリエットの夫。

ハンフリー・カドウオラダー‥ティプトンとフレシットを兼任する教区牧師。

キャムデン・フェアブラザー‥ミドルマーチに住む聖ボトルフ教会の牧師。

ウィル・ラディスロー‥カソーボンの伯母の孫。カソーボンが経済的に援助している。

 


第一部では、上流階級で美人だがかなりの変人のミス・ブルック(ドロシア)が、50歳くらいのカソーボン牧師に心酔し、結婚し新婚旅行でローマに旅立つまでが描かれる。

 


第二部ではミドルマーチの新病院経営にからんで、工場長ヴィンシー、実質的な町の支配者である銀行家バルストロード、新参者の医師リドゲイト、牧師らの思惑が交錯する。

ヴィンシーの美しい娘ロザモンドとリドゲイトは恋に落ちる。

新婚旅行中のドロシアとカソーボン牧師は早くも諍いを起こし、そのローマで遊学中の牧師の親類の若者ラディスローはドロシアに思いを寄せる。

 

 

第一部
第一章

ミス・ブルック(ドロシア)と妹シーリアは、10歳そこそこで両親を亡くし、今は60がらみの独身の伯父ブルック氏の屋敷に同居している。

いきなり遺産相続の話になるが、ドロシアは後継ぎ娘で姉妹にはそれぞれ両親から年700ポンドの収入をうむ財産が遺されていた。(『高慢‥』の姉妹たちの想定される遺産は年100ポンドだった。)

もし、ドロシアが結婚して男の子が生まれれば、伯父ブルック氏のかなりの財産を相続することになる。

だが、美人で財産も知性もある妙齢のドロシアが結婚できないのはなぜかというと、信仰が厚すぎて神学書にはまったり、政治経済に興味をもったり地域の人たちのため農家の設計図を引いている彼女は世間の人から変人と思われていたからだ。

 


ある夜、ブルック氏邸の夕食にサー・ジェイムズ・チェッタムとカソーボン牧師が招かれる。

 


第ニ章

ドロシアはカソーボン牧師ほど心を惹かれる人に会ったことはないと思っているので2人の会話に割り込んできたサー・ジェイムズに腹を立てる。サー・ジェイムズは彼女に求婚しようと思っている。彼は頭の良さは彼女が優勢だと自覚していたが、自分は男というだけで格上だから気にしなかったし、50がらみの干からびた牧師を恋愛対象と見ているとは信じられなかったからだ。

一方ドロシアは、サー・ジェイムズのことを、妹と結婚しようと思っているので自分に愛想よくしているのだろうと思っていた。

 


第三章

学者肌のカソーボン氏は知識の宝庫で、年代記の執筆作業をしている。彼の描く構想のスケールの大きさにドロシアはすっかり心酔する。

 


ドロシアが設計図の農家建設実現にサー・ジェイムズの協力を求めると、彼はますます彼女が結婚してくれるものと誤解してしまう。

 


それを知り、ドロシアは農家建設を断念し、涙する。「設計図を描くのは、お姉さんのお気に入りの趣味なのに、それは残念すぎる」とシーリアは慰めるが、「趣味」と言われドロシアは激怒する。

 


ドロシアはブルック伯父から、カソーボン氏が結婚申し込みの許しを求めてきたと伝えられる。

 


ブルック伯父もシーリアもこの結婚にもろ手をあげて賛成というわけではなかったが、ドロシアは感激して承諾する。

 


第六章

教区牧師の妻カドウォラダー夫人がブルック氏邸を訪れ、ドロシアの婚約を知ると、サー・ジェイムズに伝える。未練たっぷりのサー・ジェイムズに夫人は諦めるよう助言する。カドウォラダー夫人はサー・ジェイムズとドロシアとの縁談を自分が仕切るつもりでいたので、ドロシアに対し忿懣やる方ない。振られたサー・ジェイムズに対してはシーリアを充てがおうとさっそく動き出す。

 


サー・ジェイムズは辛い気持ちを押し殺して、礼儀上ドロシアに会いに行く。

 


「私たちは、(中略)一日の間に、何度もがっかりすることがあるが、涙をこらえ、(中略)「何でもありません」と答えて耐える。自尊心が私たちを守ってくれる。自分の傷を隠そうとするだけなら、(中略)自尊心も悪くはない。」

 


第七章

2人は婚約期間をブルック氏邸で過ごす。ドロシアはカソーボン氏の役に立ちたいと思い、毎日1時間ギリシア語を教えてもらっている。

 


第八章

サー・ジェイムズはやはり諦めきれず2人の結婚を延期するようブルック氏に頼んでくれとカドウォラダー夫人の夫に泣きつく。カドウォラダー氏は同じ牧師なのでカソーボン氏の肩を持つ。

 


サー・ジェイムズはその後もブルック氏邸に通い続け地主としてドロシアの農家建設を手伝い続けている。次第に2人は率直に話のできる友人同士になっていく。

 


第九章

姉妹とブルック氏はドロシアが住むことになるローウィックのカソーボン氏の邸宅を案内してもらう。

カソーボン氏の伯母の孫にあたるウィル・ラディスロー青年が庭でスケッチをしていた。

まだ将来を決めていない青年を1、2年ほど遊学させるつもりだとカソーボン氏は語った。

 


第十章

それから間もなくラディスロー青年は大陸に旅立った。

一方、カソーボン氏は婚礼の日がが近づいても、一向に自分の気持ちが昂揚しないのに気づく。

 


新婚旅行の話になると、カソーボン氏はローマ滞在中は自分は図書館で調べ物をして時間を有効活用したいと思っている、独りにさせてしまうので妹さんが同伴してくれたら気が楽だ、という。ドロシアは、カソーボン氏と知り合って、初めて腹を立てる。

 


ブルック氏邸でミドルマーチの名士たちが招かれた晩餐会が開かれた。その後あと間もなくカソーボン夫人となったドロシアはローマに向かった。

 


第十一章

さて、その晩餐会には、ミドルマーチで新規に開業した若い外科医のリドゲイト、独身の中年男チチェリー、工場主で最近市長に選ばれたヴィンシー、弁護士のスタンディッシュ、銀行家バルストロード、レンフルー大佐の未亡人らが参加していた。

 


この様子見たカドウォラダー夫人はブルック氏は選挙出馬を狙っていると評した。

 

ヴィンシー家の美しい長女ロザモンドは伯父フェザストーンを訪ね、そこでフェザストーンを往診するリドゲイトと知り合い恋に落ちる。

 


第二部

第十三章

熱病専門の新病院経営について、リドゲイトは自分の患者でもある銀行家バルストロードをたびたび訪ねる。

フェアブラザー牧師に替わってタイク牧師を病院付き牧師にしたいとバルストロードは考えている。

リドゲイトは牧師の病院勤務については関心がない。

 


バルストロードの義兄ヴィンシー氏は息子フレッドを聖職者にしたいと考えているが、バルストロードは世俗的な虚栄心のためにお金を使うのはやめた方がよいと反対する。フレッドが伯父フェザストーンの土地を担保に金を借りようていることを批判し、そんな甘やかしに手を貸すことはできないと突っぱね、ヴィンシー氏を激怒させる。

 


自分が手を貸さなくても工場主としての地位を立派に築き上げているではないか、と諭してもヴィンシーは聞く耳を持たない。結局バルストロードは便宜を図る。

 


第十五章

リドゲイトは競争者の少ない地方都市で、医者として勤勉に職務を遂行しながら、学問研究に励もうと考えていた。「ミドルマーチのために小さなよき仕事を世界のために偉大な仕事をしようと。」

 


そんな彼も、迷走した事があった。ロール女優に夢中になったが、彼女は舞台の上で夫を殺してしまう。事故だと判断されたので彼女は釈放され、リドゲイトは求婚した。しかし、彼女は本当は殺したのだと告白した。リドゲイトは医学の研究に立ち戻った。

 


第十六章

リドゲイトはヴィンシー家で楽しいひとときを過ごす。ピアノ演奏や歌を披露してくれた娘のロザモンドに魅せられるも、向こう5年は結婚しないつもりだった。発疹チフスと腸チフスの鑑別の方が重要だった。

 


第十七章

翌日リドゲイトはキャムデン・フェアブラザー牧師を訪ねた。バルストロード氏が新病院から追い出そうとしている牧師だ。

母親のフェアブラザー老夫人、その妹ミス・ノーブル、フェアブラザー牧師の姉ミス・ウィニフレッド・フェアブラザーがリドゲイトを出迎えた。

フェアブラザー牧師は独身で女性陣に頭が上がらないようだったが、彼の説教は独創的で力強く評判が良かった。

 


第十八章

病院付き牧師問題についてリドゲイトはあまり興味なかったが、どちらかに投票しなければならない。

ドルマーチの実質的支配者のバルストロードは、彼の推すタイクに投票しなければリドゲイトの職を奪うと脅しをかけた。タイクは偽善的な嫌なやつに思えた。

遅れてきたリドゲイトが最後の一票をタイクに投じ、タイクに決まる。

 


第十九章

新婚先のローマでは、ラディスローと画家の友人ナウマンがカソーボン夫人の肖像画を描きたいと思う。

 


第二十章

ドロシアは、自分でも理由のわからない精神的な混乱に陥り、滞在しているアパートで一人で激しく咽び泣いている。不満があるわけではなかった。

自分とカソーボン氏との感じ方のずれに気づきはじめる。ドロシアは、本当は夫のそばにいて仕事を手伝いたい役に立ちたいと思っていたのだが、カソーボン氏の終わりの見えない執筆活動について皮肉めいたことを言う。カソーボン氏は世間から批判されていることは自覚しており、それを妻からも指摘されたことが腹立たしい。ドロシアも憤慨する。しかし、ドロシアは気を取り直し、夫を図書館に送り、放心状態で美術館をでぶらぶらする。美術館で、ラディスローと友人の画家ナウマンはそんなドロシアを見かける。

 


第二十一章

夫妻は表面的には仲直りする。しかし、ドロシアは、相変わらずどうすれば夫に献身できるかを、そして夫の知恵を借りて自分が賢くなることを考えており、夫にも自分と同様に自我という中心があり、ドロシアとは異なる世界を持っているということを今ひとつ理解していなかった。

 


第二十二章

ラディスローは、カソーボン夫妻を友人ナウマンのアトリエ見学に誘う。ナウマンは宗教画を描いていたが、聖トマス・アクィナスの顔のイメージにカソーボン氏がぴったりなのでスケッチさせてほしいと申し出ると、カソーボン氏は喜んで承諾する。ナウマンはドロシアも聖クララのモデルになってもらう。ドロシアを崇拝するラディスローは嫉妬する。ラディスローはカソーボン氏の援助を受けローマに来ていたが、イギリスに帰り自活することを決意する。

#ミドルマーチ

#エリオット

#イギリス文学

#長編小説

#女流作家