猫の本棚名作紹介ブログ

古今東西の名作を日々の雑感もまじえ紹介します。読書で人生を豊かに。

2021-01-01から1年間の記事一覧

山の音

#山の音 1949〜1954(昭和24〜29) #川端康成 1899〜1972(明治32〜昭和47) #岩波文庫 今まで読んだ川端作品とはだいぶ趣きが違う。 敗戦直後のある家族の風景を、老いを自覚するようになった父親の視点から季節の移ろいとともに描く。 62歳の信吾は妻保子と…

老人と海

#老人と海 1952 #ヘミングウェイ 1899-1961 #福田恆存 訳 84日も釣果のない、運も尽きたかと思われる老人が、独り小舟で漁に出る。 若い頃の初読では、カジキと格闘する老人の、強いアメリカの象徴のような不屈の精神が印象的だった。 再読では、美しく大き…

蟹工船

#蟹工船 1929 #小林多喜二 1903(明治36)-1933(昭和8) #岩波文庫 本日は選挙日ですね。 自分の生きる環境・社会を変えたいと思ったら選挙権使わない手はありません。 * * * 目を背けたくなるような日本の黒歴史。戦地の兵隊も悲惨だったが、労働者も悲惨だ…

カラマーゾフの兄弟(下)

#カラマーゾフの兄弟(下) #ドストエフスキー #原卓也 訳 #新潮文庫 怪演を見せた父親役の吉田剛太郎はすぐブレークしたが、登場シーンも少ない脇役で意外な地味な犯人を演じていた無名の俳優は忘れ去られた。松下洸平が朝ドラで人気者になっても、すぐにス…

カラマーゾフの兄弟(下)少年たち

#カラマーゾフの兄弟 #ドストエフスキー #少年たち スピンオフドラマとして独立させたいような物語です。 第四部 第十編 少年たち 親殺しの話の前に、いったんイリューシャと同級生たちの物語に移ります。 まるで学園ドラマなのですが悲しすぎる展開です。 …

カラマーゾフの兄弟(中)

#カラマーゾフの兄弟(中) #ドストエフスキー #原卓也 訳 #新潮文庫 世界最高の文学と言われる本書。 推理小説であり、宗教哲学書であり、恋愛小説であり、悲劇であり、喜劇であり、詩であり、そのテーマは愛、生き方、神と人間、信仰、家族、いじめ、児童…

金閣寺

新型コロナ感染拡大で、戦々恐々とする日々が続いています。私は新型コロナワクチン(ファイザー製)を接種しましたが、デルタ株に対する効き目は50%くらいということなので、引き続きかなり用心して生活しています。一年以上公共交通機関を利用していないかも…

カラマーゾフの兄弟(上)五編の4まで

#カラマーゾフの兄弟 #ドストエフスキー #原卓也 訳 #新潮文庫 4部(1〜3編、4〜6編、7〜9編、10〜12編)より成る超大作。 2013年に舞台を現代日本に置き換えテレビドラマ化された。夜11時台の番組だったが、超有名な原作の世界を見事に描き評判となった。中…

若きウェルテルの悩み

#若きウェルテルの悩み #ゲーテ #高橋義孝 訳 #新潮文庫 自身の絶望的な恋の体験に基づいて執筆されたゲーテ23歳の作品。 友人に宛てた書簡の形式をとっている。許婚者のいる美しい女性ロッテに恋をし、遂げられない思いに絶望してついには自殺してしまう。 …

パルタイ

#パルタイ #倉橋由美子 #新潮文庫 カフカ、カミュの影響がみられる処女作品集。 ▶︎パルタイ 昭和35年1月 革命を目指す「パルタイ」に参加した「わたし」。 「パルタイはどこかに実在し、奇妙に複雑なメカニズムで動いており、たえずのびちぢみしてはわたしの…

出家とその弟子

#出家とその弟子 #倉田百三 1891-1943 #岩波文庫 ▶︎青年たちの熱狂的な支持を得て、夏目漱石の『こころ』とならび創業まもない岩波書店の大ベストセラーとなった。作者26歳の時の作品。 先日インスタにポストした北杜夫の『楡家の人びと』の中で、学業成績…

シーシュポスの神話④ 不条理な論証 哲学上の自殺

#不条理な論証 *l’absurd 「不条理」というと難解なので、「理不尽」と直して理解に努めていたが、もっとぴったりな訳が見つかった。「ばかげた」である。これだと荒唐無稽という意味も含んでいる。 ▶︎実存哲学の考えーシェストフとキルケゴール2人の『飛躍…

シーシュポスの神話③ 不条理な論証 不条理な壁  

ふと、舞台装置が崩壊することがある。起床、電車、会社や工場での4時間、食事、電車、4時間の仕事、食事、睡眠、同じリズムで流れてゆく月火水木金土、ー機械的な生活の果てに倦怠がありある日、≪なぜ≫という問いが頭をもたげる。すると意識の運動が≪はじま…

シーシュポスの神話② 不条理な論証 不条理と自殺

#不条理な論証 #カミュ ▶︎真に重大な哲学上の問題 それは自殺ということだ。 人生が生きるに値するか否か、人生の意義を判断する、これが哲学の根本問題に答えることなのである。 あらゆる本質的な問題について、ー本質的問題とは、ときにひとを死なしめるか…

シーシュポスの神話① カミュの『不条理』とは

カミュの『不条理』とは 翻訳者である清水徹氏の付記によれば、 基本的には、形容詞 absurde を「不条理な」、名刺 l’absurde を「不条理」と訳している。 普通のフランス語としては、absurde とは「なんとも筋道の通らない」「意味をなさない」「荒唐無稽な…

『ペスト』カミュ

カミュは1957年戦後では最年少の43才でノーベル文学賞を受賞、1960年交通事故で亡くなった。物語は、フランスの植民地であるアルジェリアのオラン市をペストが襲う。194*年4月最初の死者が確認されてから、流行が収束しロックダウンが解除される翌年の2月…