#山の音 1949〜1954(昭和24〜29)
#川端康成 1899〜1972(明治32〜昭和47)
#岩波文庫
今まで読んだ川端作品とはだいぶ趣きが違う。
敗戦直後のある家族の風景を、老いを自覚するようになった父親の視点から季節の移ろいとともに描く。
62歳の信吾は妻保子と息子修一夫婦と暮らしている。修一は若妻菊子を裏切り浮気をしている。信吾はじっと耐えている菊子を気の毒に思うと同時に淡い恋情を抱いている。
信吾は妻保子に対して特に不満はないのだが、若い頃亡くなった保子の美しい姉のことを慕い今でもよく思い出していた。そしてその投影であるかのように菊子を愛していた。
『千羽鶴』同様、鎌倉が舞台だが、さすがに敗戦直後のためか古都の風情はあまり感じられない。お寺の鐘の音も信吾の聴力低下を示すために描かれていた。信吾は認知機能や記憶力は少々おぼつかなくなっているが、東京にある会社に横須賀線で通勤している。
息子修一もその会社に勤めており、会社の女の知り合いの戦争未亡人と不倫をしているのだった。菊子はそのことを知り、そんな夫の子どもを産みたくないと中絶してしまう。修一は、中絶を止めるどころか不倫相手の絹子への手切れ金を取り返し中絶費用に充てるのだった。
信吾は、息子の不義を知り、相手の絹子を突き止め別れさせるが、絹子もまた妊娠しており何としても産むつもりらしい。
一方、信吾の娘房子も夫とうまくいっておらず、2人の小さい女の子とともに実家に転がりこんでくる。
しばらくしてその夫は、女給と心中し夫だけ助かる。
ストーリーは大変面白く読みやすく昼ドラ的展開を呈する。美しき日本はあまり描かれていないとは言ってもやはり日本的な小道具は使用されており、今回最も重要なものは慈童の能面。
信吾の見る夢も何やら意味深。
印象的な言葉—
「夫婦というものは、おたがいの悪行を果てしなく吸い込んでしまう、不気味な沼のようでもある。」
人生の深淵に触れるような小説でもある。繰り返し読みたい味わい深い名作。
#日本文学
#読書ノート #読書記録