新型コロナ感染拡大で、戦々恐々とする日々が続いています。私は新型コロナワクチン(ファイザー製)を接種しましたが、デルタ株に対する効き目は50%くらいということなので、引き続きかなり用心して生活しています。一年以上公共交通機関を利用していないかもしれません。毎年人間ドックや検診を受けていますが、それも先延ばしにしています。
ブログには久しぶりの投稿ですが、読書自体は続けており、Instagram に投稿していました。
今日ご紹介する本は今年5月上旬に読んだ『金閣寺』です。
それにしても、「世界を変貌させるのは決して認識なんかじゃない、行為なんだ」とは名言ですなぁ。
#金閣寺
#新潮文庫
実際の事件を題材にとり、描かれた小説。
理解しにくい人物の、犯行に至る背景、心理、思想が一人称で豊穣な言葉で語られる。
共感はできないが、丹念に描かれているので、主人公の犯行に至った動機、屈折した想念は理解はできた。
* * * * *
▶︎美から疎外された「私」の心象の金閣に対する偏愛
「私」は京都府舞鶴の成生岬の寺の息子として生まれた。父はよく金閣寺のことを語った。
「父によれば、金閣ほど美しいものは地上になく、また金閣と言うその字面、その音韻から、私の心が描き出した金閣は途方もないものであった。」
「私」は生来の吃りで容貌も醜かった。
私という存在は、美から疎外されたものなのだった。
中学校の春休みに、父が金閣寺に連れていってくれることになった。金閣寺は想像していたほど美しくなかったので少年は落胆した。
父親は友人である金閣寺の住職に息子の将来を託し、岬の寺に戻るとまもなく大量喀血しこの世を去った。
「私」は金閣寺の徒弟になりこう呟くのだった。
『私の心象の金閣よりも、本物の方がはっきり美しく見えるようにしてくれ。またもし、あなたが地上で比べるものがないほど美しいなら、なぜそれほど美しいのか、なぜ美しくあらねばならないのかを語ってくれ』
「私」は同じ徒弟の鶴川という少年と親しくなった。東京近郊の裕福な寺の少年で容姿も性格も申し分ない少年だった。
直感で、この少年は金閣を愛さないだろうと、「私」は思う。自分の金閣への偏執は自分の醜さのせいにしていたからだった。
「私」は鶴川少年に父を失った感情をうまく説明できず、もどかしい思いだった。感情にも吃音があり、いつも間に合わないのだ。
空襲で、この美しいものが遠からず灰になるのだ、と思うと現実の金閣は現象界のはかなさの象徴に化し、心象の金閣寺に劣らず美しいものになった。
父の一周忌に母親が金閣寺を訪れ、岬の寺を処分した、先はもうおまえは金閣寺の住職になるしかない、と言う。「私」は驚いた。もともと母親は不倫したことがあり、「私」は嫌悪している。
▶︎孤独と女性関係の挫折
戦争も終わり、「私」は鶴川とともに大谷大学に進学する。鶴川の友人が増えていくのに対し、「私」は孤立を深めていく、そんな中、柏木という強度の内飜足の学生と話しをするようになる。彼は鶴川と対照的な性悪で詐術を弄する男だが、「私」は親しみを感じる。
柏木に紹介され女を抱くが、金閣寺が現れ失敗する。その日、東京に戻っていた鶴川が事故死したという電報が金閣寺に届く。
「私」は、誰ともほとんど口をきかぬ生活をし、鶴川の喪に 1年近くも服していた。
「私」は再び柏木と会う。そして柏木が捨てた女を抱こうとするが、再び金閣寺が現れ挫折する。
金閣に向かって、私は呼びかけた。「二度と私の邪魔をしに来ないように、いつかは必ずお前を我が物にしてやるぞ」
▶︎『金閣寺を焼かねばならぬ』
祇園の芸妓と新京極を歩いている金閣寺の老師を目撃してしまった「私」だが無視され、老師の憎悪する顔が見たいという欲求にとらわれる。そして老師を脅すような真似をすると、老師は「もうおまえを後継にするつもりはない。」と明言した。
「私」は学校もさぼるようになり、柏木に金を借り出奔する。
旅の舞鶴を由良川沿いを河口に向かって歩く。そして目の前に裏日本の海が広がった。この海が「私のあらゆる不幸と暗い思想の源泉、私のあらゆる醜さと力との源泉だった。」
荒涼とした自然の中、突如ある想念が浮かんできた。
『金閣寺を焼かねばならぬ』
▶︎なぜ愛する金閣寺を焼くのか?
「私の吃りは私の美の観念から生じたものではないかという疑いが脳裡をよぎった。」
『美は‥‥美的なものはもう僕にとっては怨敵なんだ』
世の中の美を破壊しようと思ったら、生きているものは殺しても次々と生まれてくる。国宝の金閣寺を破壊すれば、取り返しのつかない破壊となる。
▶︎誤った認識に気づかされても‥
ある日、柏木が「私」の借金を返してもらおうと老師に訴えた。老師から寺を出て行けと言われ、私は決行を急ぐことを決める。
「私」は柏木に死ぬ直前に送られてきた鶴川の形見の手紙を見せられた。鶴川は「私」と柏木の交遊を非難しながら、柏木とこれほど密に付き合っていたのだ。手紙の文章は例えようもなく下手だった。読み進むにつれ、「私」は泣いた。そして鶴川の「僕は生まれつき暗い心を持って生まれていた。僕の心は、のびのびとした明るさを、ついぞ知らなかったように思える」という一文は「私」を愕然とさせた。
明るく誰からも好かれ、幸福そのものに見えていた鶴川は、そうではなかった。どこにでもある小さな恋愛事件のため自殺したのだった。
柏木は、「私」が何事かを企んでいることを察知しこの手紙を見せたのだった。
「それを読んで人生観が変わったかね。計画はみんなご破算かね」
しかし、「私」は世界を変貌させるのは決して認識なんかじゃない、行為なんだ、と答えた。
そして「私」はついに犯行に及んだのだった。
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